ある日の風景 X(おまけ)


その日の収録。
スタジオには無事着替えも到着し、春香は再度羽子板を持って準備に勤しんでいた。
二人で周囲へのフォローの挨拶も終り、セットの完成を待つ間に、春香にちょいちょいと袖を掴まれる。
「それで、プロデューサーさん」
「なんだ?」
春香はにこにこと嬉しそうだ。
「私、二つ言いたいことがあって。一つは報告と、一つはアイデアですっ」
「ほう、なんだろ」
春香は、少し照れながら、
「あの…お手紙の件は、やっぱり断ることにしましたっ。今は…本当に今は…お仕事に集中したいと思ったので」
「……そうか」
俺はうなずいた。
それが春香が導いた結論なら。
俺はそれを尊重しよう。
そして、その理由を聞いて、嬉しくも思った。
やはり、春香は今の仕事が大切なのだ、と。
大変でもあり、泣きたくなるときもあるが、それでも充実していると。
そう教えてくれたのが嬉しかった。
「それで、もうひとつのアイデアっていうのは?」
俺の問いかけに、一転して春香がにこやかな笑顔になる。


「いくぞっー」
大仰な構えで男性タレントが気合の声とともに羽根をカツンとあげる。
しかし実際はなんでもない当たりだ。
それを春香はスマッシュ…しようとして、派手に空振り。
そのままずっこけてしまう。
会場が、どっと歓声に沸く。
「いよぉーし、いくぞ〜」
男性タレントが両手に持つたっぷりと墨が含まれた細筆が、春香の両頬を真っ黒に染める。
「うぷっ、これ…打ち合わせより多い…」
そんな春香の素の呟きが、さらに会場の爆笑を誘う。
(よし、ハプニング風の画も見せて視聴率アップ!)
プロデューサーは組んでた腕はそのままに、春香だけに見えるように親指を立てて見せた。


-ほんとうに終-


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